P20 輝くふくろいの人 経験と技術が作り出す信頼の一着 その卓越した技能で「現代の名工」に オーダースーツ仕立て職人 竹下銑三さん(方丈南)  「昔はそもそも既製のスーツなんてなかったからね。自分の体型に合うスーツをオーダーして作るのが当たり前の時代で。今でもそれが当たり前だと思ってやってるよ。  『着やすいよ』『まだ着てるよ』ってお客さんに言ってもらえることが、やっぱり一番うれしいね」  はさみを手に、作業を進めながらそう話すのは、新町のトヨモト洋服店で注文紳士服の仕立て職人をしている竹下銑三さん、86歳。昨年11月、卓越した技能を持ち、各分野での第一人者とされる人を厚生労働省が表彰する「現代の名工」の一人に選ばれました。 16歳から70年間 この道一筋の大ベテラン  竹下さんがこの道に入ったのは、中学卒業後の昭和25年。森町にあった洋服店に見習いとして入店し、そこで6年間修業を積んだ後、現在の店で働き始めました。先輩たちの仕事を見て覚える≠アとで、テーラーとしての腕を磨いたといいます。  業務を通して培ってきた豊富な知識と高い技能により、これまでにも数々の注文紳士服のコンクールで、名誉ある賞を受賞してきました。 スーツ作りの肝は「肩」 一人ひとりに合った着やすい服を  採寸から型紙起こし、裁断、仮縫い、縫製まで、オーダーメイドでスーツを仕上げる工程の全てで持てる技術を注ぎ込む竹下さんが、特に高い評価を得ているのが「肩作り」の技能です。怒り肩やなで肩、前肩など、肩の形は人により千差万別ですが、この「肩」を上手に作ることで、非常に着心地の良い服が出来上がります。  「肩がビシッと決まれば、あとはぶら下がってるみたいなものだから。まぁ、そこが技術だよね」  過去には、評判を聞きつけた大手紳士服屋の技術者が、作り方を尋ねに来たこともあるといいます。しかし、長年の経験と卓越した技術の賜物である竹下さんの「肩作り」は、そう簡単に真似できるものではありません。 時代の変化に合わせてこれからも技術とセンスを研鑽  近年では、オフィスカジュアルの浸透などによりスーツ自体を着る機会も以前より少なくなってきましたが、だからこそ、自分に合った最高の一着を求める人も増えています。  「かつては必要に迫られて作っていた注文服ですが、今では楽しみ≠竍こだわり≠ニしてオーダーし、自分の理想のスーツを作るお客さんが増えてきました。最近では、『手持ちのスマホがぴったり入るポケットを付けて欲しい』なんてリクエストもありますね。   時代の変化に対応できるように日々、技術とセンスを磨いて、注文してくれる人がいるうちは、いつまでもその声に応えていきたいです」    着る人を思う気持ちがあるからこそ、出来上がる最高の一着。竹下さんが仕立てているのは、世界にひとつだけのスーツであり、それをオーダーした人の喜びと幸せです。