P18 輝くふくろいの人 逆境を跳ね返し、努力を続ける若手女性ブリーダー 柴犬専門ブリーダー「芝田荘」代表 芝田香穂さん(岡崎) 「命あるもののお世話に雨の日も風の日も関係ありません。毎日変わらない愛情を持って柴犬に接しています」  自身の仕事について熱く語るのは、芝田香穂さん・29歳。祖父の代から30年続く柴犬専門のブリーダー「芝田荘」の2代目代表を務めています。 柴犬への興味は海外でのふとしたきっかけから  犬のお世話といえば散歩しかしたことがなかった芝田さんがブリーダーの世界に足を踏み入れたのは、県外で事務職をしていた21歳の時のこと。友人から紹介された、後に芝田荘の番頭としてビジネスパートナーになる外山さんとの出会いから始まります。 「当時、外山さんは海外で製造業の責任者を務め、交友を深める中で私も海外に足を運ぶ機会が増えていきました。そして、様々な場所を訪れる中で、自分には身近な存在だった柴犬の姿を見ないことに気付いたんです。そこで、『一歩海外に出ると珍しい犬種なのかな?』と、今更ながら柴犬に興味が湧きました」  そして帰国後、帰省の折に祖父の仕事を手伝うようになった芝田さんですが、ほどなくして祖父が倒れて入院。芝田荘の存続が危ぶまれる中、「自分が祖父の代わりに頑張ろう」と思い切って手を挙げました。  そうはいっても突然訪れた状況の変化に、最初は不安で毎日涙を流し、現場を回すことで手一杯に。しかし、日々のお世話の中で柴犬への愛情が深まり、祖父から引き継いだこの仕事に誇りを持てるようになっていきました。そして、少しずつ仕事に慣れていく中で様々な改善点に気付き始めました。 「祖父は1人で全ての仕事を行っていたので『自分だけが分かればいい』と基準がないものが多かったんです。そこで、フードの定量化や犬舎・産室作業の見直し・標準化を進めたほか、外山さんの助言もあり『3S・3M(※)』について学んで製造業の手法を取り入れ、倉庫内のロケーション管理、在庫管理への先入先出法の導入を進めました」  地道な改善の積み重ねで仕事が効率化され、柴犬との時間が増えた芝田さん。幼少期からのしつけにも力を入れ始め、その姿勢は“師匠”と慕っている89歳の一流ブリーダーからも少しずつ認めてもらえるようになりました。 柴犬の幸せを願って  やがて、これまで芝田さんを陰で支えていた外山さんも番頭として芝田荘の一員に。スタッフも増員し、犬のおやつや備品の販売・一時預かり・お泊り・トリミングなどサービスを拡充していく中で、芝田荘の丁寧な仕事ぶりはSNS上で広がり、全国からお客様が訪れるようになりました。  自信をもって働く毎日ですが、展覧会などで、芝田荘のきちんとしつけられたお利口な柴犬を見た他のブリーダーから、「柴犬ならもっと迫力がないと。若者は分かっていないな」などと心無い言葉を吐かれることもあるといいます。それでも、芝田さんはある信念をもっています。 「私たちは、対話を通じてご家族と意思疎通ができ、多くの人や犬に愛される柴犬を育てたいという思いがあり、幼少期からのしつけに力を入れているんです。何を言われても、これが芝田荘の方針であると胸を張って言えます」 袋井で叶えたい、ある夢  そんな芝田さんは、ある大きな夢を持っています。 「ドッグラン・カフェ・しつけ教室などがそろった、犬とご家族が一緒に楽しめるテーマパークを袋井につくりたいんです。これらで地域の盛り上がりにも貢献できるといいなと思います」  最近では柴犬とのふれあいブースの出展や職業体験を通した青少年の育成など、新たな試みも開始した芝田さん。今後の展開が楽しみです。 ※3S…整理・整頓・清掃、3M…ムリ・ムダ・ムラ 製造業で使われることが多い。