P18 輝くふくろいの人 国内唯一の伝統織物工芸を父から娘へ承継 「アバカ」の魅力を多くの人に伝えたい! そま工房(中新田) 専務 乗松浩美さん 「この素材の特徴は、なんといってもこの独特の光沢!その上、紙幣に使われるくらい耐久性に優れているんです」  しっとりとした美しい光沢を放つ布を手に、その魅力を語るのは、乗松浩美さん・43歳。フィリピン原産のバショウ(バナナの仲間の植物)の木の繊維でできた素材「アバカ」を加工する日本で唯一の工房で、数々の新製品の製造・開発をしています。 事業を承継したきっかけ  モノづくりに興味があった乗松さんは、デザイン専攻の大学に入学。卒業後はアパレル会社に勤務しました。そんな乗松さんに転機が訪れたのは12年前。育児休業中に、アバカを使用したふすまや壁紙を製造する父の工房の手伝いをしたときのことでした。 「手伝って初めて気づいたのですが、アバカの加工は、とても手が掛かるんです。その分出来上がった時に大きな達成感を感じました。また、アバカの美しさにも気づき始めて、より良い仕上がりを追及するようにもなりました」  最盛期には国内に20軒ほどもあったアバカを取り扱う工房は年々減少し、  現在ではそま工房のみ。父も将来、工房をたたむ予定でした。そのような中「この魅力ある工芸を父の代で絶えさせたくない」そう感じた乗松さんは父の工房を引き継ぐことを決意しました。 アバカ布は手間と技術の結晶  父から事業を承継した乗松さんですが、その難しさを実感します。アバカ布は、糸状のアバカ(枷)を芯棒に巻き付け(管巻)、それを入れたシャトルを使って織っていきますが、ひとつの生地を製作するのに、3日以上かかる場合もあります。その中でも特に難しいのは、シャトル交換のタイミングだそうです。 「糸がなくなる前にシャトルを交換するのですが、そのタイミングは音で判断するのです。機械によって音が違うので、聞き分けるためには、もっと経験を積まなければいけません」 アバカの魅力をもっと広めたい!  こうした工程を経てできあがったアバカ布は、独特の光沢を放ち、唯一無二の縞模様になります。このアバカ布を用いたふすま紙や壁紙は、50年以上使用しても、その光沢は衰えず、色合いも飴色に変化し、趣も増していきます。  このような魅力を持つアバカ布ですが、乗松さんは国内での認知度に課題を感じているそうです。 「販路拡大のため何社もの取引先を訪れましたが、世間にアバカが知られていないことを痛感しましたね。自分の力でもっとアバカの魅力を広めていきたいという気持ちが強くなりました」  そこで、乗松さんはアバカ布を使った加工品を積極的に製作。表面を滑らかにし、より光沢をもたせたアバカ布を使って、バックやアクセサリーなどの企画・製造を始めました。 「いろいろな雑貨を手にとっていただき、少しでも多くの人にアバカの魅力を感じてもらいたいです」 伝統と革新の融合に向け  受け継いだ伝統を守りつつ、新たな可能性を生み出していく乗松さん。 「アバカ布の繊維にあるそれぞれの癖を生かした製品ができたときは、とてもやりがいを感じます。ふすまや壁紙などの伝統的な製品も大切にしつつ、新たな事業にも取り組んでいきたいです。アバカの服も将来的に作っていきたいですね」  乗松さんの匠の技と思いは、伝統を次世代へ紡いでいくことでしょう。