東海道の松並木
街道には並木がつきもの
江戸時代の街道には、並木が植えられていました。樹種は地域によって様々ですが、袋井周辺は、松並木が続いていました。
街道の植樹の歴史は古く、奈良時代の天平宝字3年(759)には、全国の駅路の両側に果樹が植えられていました。果樹を植えた理由は、休息場として、木蔭として、食用として、といった理由が述べられています。『延喜式』を見ると、この果樹は平安時代にも引き継がれていたようです。
鎌倉時代にも、執権の北条泰時が東海道の萱津(熱田付近)に並木を植えた話があります。
全国的な街道の並木は、強力な政権でなければ難しいものですが、江戸時代には、街道に並木が整備されていました。
江戸時代の並木については、いつ植樹が制度化されたのかが不明です。宿駅制度とあわせて、慶長9年(1604)に始まった、という話もありますが、これは確かな証拠がある話ではないようで、現時点ではまだ伝説の域を脱しないようです。
この並木道は、保護や育成、管理に相当力を入れていたようで、苗木を植えることを命じることは勿論、枯れ木の補植も行われていました。また、木を植えたところには土を盛り、杭を打って、補強して、というように、並木を守る措置を講じました(だから、古い街道の並木は、根元に土が盛られ、盛り上がっています)。落ち葉や枯れ枝の処理についても、一つ一つ道中奉行の許可が必要など、制度上、街道の並木は相当重要視されていたようです。
袋井市に残る、街道の松並木関係史料
さて、袋井市には、約200年前の、街道の松並木関係史料が残されています。
それは、北原川村の、天保14年(1843)11月付け『往還並木書上帳』です。
これは、東海道に限らず、北原川村の往還に植えられていた松並木について調べた報告書のようです。手元控えのようですが、端正な文字で書かれていて、格式の高い、重要な調査として行われていたようです。
異筆が多いので、様式を書き写した上に、調査結果を書き込んだのでしょう。
『往還並木書上帳』(北原川村、1843年)
「目通リ八寸廻りゟ八尺七寸廻り迄」など、おおよその木の大きさを測って記録しています。ここでは、大きめのもののみ報告しているようです。
また、松木の本数総合計として三百八十四本と書いた横に、松の苗木を五百六十本栽培していたことが書かれています。その下に、「お触れがあったので、去る寅年(1842年)に植えた分と、それ以前に植え付けた分」と注記があり、おそらく、道中奉行でも、報告書を元に、補植用の苗木を増やすよう命じていたのだろう、ということがうかがえます。
その横には、「内2本は、今立ち枯れになっている」(「当時」は、江戸時代語では「今現在」の意味です)とあり、枯れ木を報告しています。こうしたデータを基に、補植の指示を出していたのでしょう。
松の大きさや本数を数える作業の様子をうかがわせる史料も、北原川村のものが残されていました。
それは、「松木目通ニ而廻リ覚」と書かれた史料で、他の書類を包む包み紙として再利用されていたものでした。
「松木目通ニ而廻リ覚」
再利用の際にしわくちゃになっていたのですが、丁寧に拡げてみると、「壱尺」、「弐尺壱寸」、「壱尺弐寸」、「壱尺三寸」、「壱尺四寸」、「壱尺五寸」……と、長さが順に書かれていました。
それ以外に書き込みはされていないので、詳細には不明なことも多々ありますが、想像するに、この数字は木の周りの大きさで、並木を一本一本調べて、該当する大きさのところに「正」の字か「玉」の字(昔は、数を数える時に「玉」の字を使いました)を書いて数を勘定していったのでしょう。
ところで、この史料が何を包んでいたかというと、「御林境杭書様」という史料です。この史料は境界線の杭に関するものなので、松並木の杭ではないと思うのですが、杭を打つ土木工事、ということで、同じような書類を仲間にして保管していたのではないか、ということが想像できます。
現代に残る松並木
街道の並木は、明治以降、どんどん失われていきました。
袋井市では、先ほど紹介した北原川村を含む東地区で、東海道の松並木が残っています。この「久努の松並木」は、地域の方たちが、大きさや本数など樹木の各種データの調査、苗木の補植などの地道な保護活動を行うことで、現在に残ったものです。
久努の松並木愛護会という、地元の文化財保護団体がこの取り組みを行っているのですが、その活動内容は、奇しくも、約200年前の、江戸時代の厳密な松並木管理の作業内容に近いものでした(もちろん、現在の保護活動は、最新の知見、技術によって行われています)。久努の松並木は、必ずしも昔の木がそのまま生えているわけではありませんが、松並木を守るための活動が、江戸時代に近い形で残されている、いわば、生きた歴史の現場なのです。
久努の松並木愛護会(リンク予定)
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更新日:2023年10月26日